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筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。
前回の記事で、5人の“普通の経営者”たちのAI活用事例をご紹介しました。今回は、前回取り上げた経営者のひとり、雑貨店経営者R社長(30代女性)の、AIとの付き合い方に関するお悩みを取り上げます。
筆 者 「R社長は、商品説明文と、毎日のSNS投稿文のベースを、AIに考えてもらっているのですよね。」
R社長 「はい。お店の公式SNSは創業以来毎日投稿していますが、自分で考えていると内容も枯渇してきて。毎日同じような投稿になってしまって正直つらかったんです。AIに考えてもらうようにしたらすごく楽になりました。」
筆 者 「頼もしいですね。商品説明文も考えてもらっているのですよね。」
R社長 「はい。ECサイトに載せる商品説明文と、実店舗で使う商品POPのキャッチコピーも、AIに考えてもらっています。瞬時にたくさん案を出してくれますから、はっきり言って私が考えるより質も量もはるかに良いですよ。」
筆 者 「R社長のお店は毎月たくさん新商品が登場しますものね。全部ご自身で書くのは大変だったでしょうから、AIのおかげで余裕が出来ましたね。」
R社長 「そうなんです。でも楽になりすぎて、時々『AIを使っていると自分の仕事勘が鈍るんじゃないか』って心配になるんですよ。どう思いますか?」
筆 者 「ああ・・・。実は最近、同じようなことをおっしゃって、確かに勘が鈍ってしまわれたように見える経営者様がおられました。」
R社長 「どういうことですか?」
筆 者 「その方は洋菓子店を営んでおられて、SNS投稿文のほか、チラシやホームページのコンテンツ、お問い合わせメールへの返信文面など、とにかくお客様に向けたコンテンツを全てAIに作ってもらっていたんです。」
R社長 「お問い合わせメールへの返信文も?」
筆 者 「はい。以前クレーム対応をAIに相談したら、そのアドバイスが秀逸だったそうなんです。ご自身で対応していたらお客様のお怒りを助長する言葉ばかりになっていたところを、AIがお客様のお気持ちを和らげる対応文面案を出してくれて、クレームが沈静化したそうで。それ以来、お客様対応の文面は逐一AIに相談するようになったそうなんです。」
R社長 「ああ、分かります。自分の視野が狭くなっている時、AIがハッとするアドバイスをくれることがあるんですよね。」
筆 者 「それ以来その洋菓子店の社長は、お客様の目に触れる文章づくりに関して、ご自身の考えよりもAIの考えを信じるようになって。AIが作るSNS投稿文、チラシやホームページの原稿、メール文面をほとんどチェック無しでそのまま使うようになって、『以前はどうしたらお客様が喜ぶかを考えながら仕事していたのに、もう自分にはお客様のことが分からなくなってしまった。』と嘆いておられました。」
R社長 「クレーム対応がうまく出来なかったことがトラウマになっているのですね。」
筆 者 「その通りです。そのトラウマをご自身で乗り越えるのではなく、AIに頼り切って、丸投げしてしまったんですね。」
R社長 「“頼り切って丸投げしてしまう”のが問題、という事でしょうか。」
筆 者 「その洋菓子店社長を見ていると、そう思います。AIに限らずいつの時代も、社長を退いて会長や相談役になって、現場やお客様のことを考えなくなったら、勘が鈍るのは当然ですよね。」
R社長 「AIに丸投げしてしまうのは、社長の座を渡してしまうようなもの、ということですね。」
筆 者 「はい。AIを使うこと自体は、優秀な部下に活躍してもらうようなものですから何も問題ないと思います。ただ、部下の仕事の良否は、上司が判断して決裁しますよね。それと同じで、AIの仕事を経営者がチェックして、良いものだけを選んで活用するスタンスが必要ですよね。そういうスタンスでいる限りは、勘が鈍ることはないのではないでしょうか。」
R社長 「AIを盲信して丸投げしてしまったら、勘が鈍るということですね。」
筆 者 「そう思います。その洋菓子店のチラシやホームページは、社長が作っていたころはイキイキした内容でしたが、AIに丸投げするようになってからは徐々に魅力が薄れていったように思います。AIが作るコンテンツは確かに優れていますが、お店の普段の様子やお客様の様子をAIが見ているわけではありませんから、そのお店らしい文章作りという意味ではやはり限界がありますよね。」
AIとの付き合い方で気を付けるキーワードは「丸投げ」「盲信」です。AIはまるで人格があるかのようにふるまうだけに、自分に自信を失くしているときなどはうっかり盲信してしまってもおかしくありません。しかし部下を盲信して丸投げしては組織が成立しないのと同じです。AIはあくまでも「影のサポーター」と位置付けて活用したいですね。そういう付き合い方であれば、私たちの仕事の勘は鈍るどころかAIが何倍にも伸ばしてくれるはずです。
経営コンサルタント 古市今日子
株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士
外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件