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厚生年金に加入しながら働くと、年金の減額調整が行われることがある「在職老齢年金制度」。2026年4月、この制度の年金減額の基準が大幅に引き上げられる。シニア社員の給与や働き方に与える影響も小さくないだろう。そこで今回は、4月から始まる在職老齢年金制度の新ルールについて、その影響を検証してみよう。
在職老齢年金制度では「月々の給料額(標準報酬月額)」「ボーナスの月割り相当額」「年金の月額(基本月額)」の3つの数値を足し、基準額(支給停止調整額)を超えるとその半額が月々の年金からマイナスされる。2025(令和7)年度である現在は、51万円を基準に減額が実施されている。
ところが、2026(令和8)年4月からは、65万円を基準に年金減額が行われることが決定している。基準数値が従前の約1.27倍へと、大幅に引き上げられるわけだ。基準額が引き上げられるということは、年金が減額されづらくなることを意味する。
具体的に考えてみよう。以下の収入状況のシニア社員がいるとする。
この社員の場合、3つの数値の和は58万円(=38万円+10万円+10万円)になる。2025(令和7)年度の減額基準51万円と比較すると、7万円超過(=58万円-51万円)する計算である。
そのため、その半額に相当する3.5万円が月々の年金から差し引かれる。結果としてこのシニア社員が実際に受け取れる年金額は、月6.5万円(=10万円-3.5万円)にまで減る。
2026(令和8)年度であればどうだろうか。新しい減額基準は65万円なので、3つの数値の和である58万円は基準額内に収まっている。従って、このシニア社員は従前どおり勤務しても、月10万円の年金がそのまま受け取れるわけだ。(下図参照)

現在、老齢厚生年金を受け取る年齢になったら「年金額が減らないように、就業時間を調整しながら会社などで働く」と考える人材の割合は非常に多く、44.4%に上る。(生活設計と年金に関する世論調査(令和5年11月調査)/内閣府)
一方、「年金額が減るかどうかにかかわらず、会社などで働く」と考える者は14%しか存在しない。(同調査、下図参照)

働いていると年金が減らされる仕組みに対する抵抗感は非常に根強く、「年金が減らない範囲で働きたい」と考える人が相当数存在していることが分かる。
ところが、従前は年金が減額されていたシニア社員であっても、今回の制度改定により減額を回避した上で、さらに勤務時間数などを増加できるケースも発生する。前述の事例であれば年金減額が行われる65万円まではあと7万円(=65万円-58万円)の余力があるため、その分だけ働く余地が生まれるわけだ。
勤務時間数や勤務日数を増加した結果として標準報酬月額などが上昇すれば、短期的には負担すべき保険料額が増加する。しかしながら、中・長期的に見れば、生涯受給する年金額の増加に直結するという大きなメリットが存在している。
現在、平均余命の伸長などに起因し、高齢期収入の増加・安定化を欲するシニア層は決して少なくない。そのため、年金減額の基準改定を踏まえた勤務時間数などの増加は、「本当はもっと働きたい」「できれば年金をもっと増やしたい」などの思いを持つシニア社員のニーズに応える措置ともいえる。
シニア社員の有効活用は、人手不足感の強い経営環境を企業が生き抜く重要な施策のひとつだ。この機会にシニア層の労働条件について、該当社員とよく話し合ってみるのもよいのではないだろうか。
厚生労働省ウェブサイト:令和8年度の年金額改定についてお知らせします
内閣府ウェブサイト:生活設計と年金に関する世論調査(令和5年11月調査)
大須賀信敬
コンサルティングハウス プライオ 代表
(組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士)
中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。