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個人事業主になって戸惑うのが「事業主貸」「事業主借」という用語です。難しそうに感じますが、これは事業とプライベートのお金のやり取りを区別するための勘定科目となっています。この記事では、確定申告が初めての方向けに、事業主貸・事業主借の意味と仕訳の仕方を、具体例をあげて解説します。
「事業主貸」「事業主借」とは、いずれも、個人事業主がプライベートにおける収入や支出があったときの仕訳で使う勘定科目です。いずれも必要経費ではありません。そのため、多額の支出を「事業主貸」として計上しても最終的な利益は圧縮されません。
なぜこのような勘定科目があるのでしょうか。これには次のような事情があります。
株式会社など法人であれば、事業用のお金しかありません。法人は何らかの目的のために設立するものです。そのため、事業以外の理由で収益・費用が発生することはありません。
一方、個人事業主は生身の人間です。事業でお金を稼ぐ一方、食事をして睡眠をし、買い物に行ったり子供の塾代を支払ったり…というプライベートな活動もあります。つまり、個人事業主は法人と違い、「事業」「プライベート」の2つのお金があるのです。
しかし個人事業主が「事業」「プライベート」のお金をいつもきちっと分けられるとは限りません。開業するにあたり、これまでプライベートで使っていた銀行口座を事業用で使い始めるのが一般的です。また、事業用カードでプライベートの支出を決済することもあります。つまり、個人事業主は現金であれ預金であれカード決済であれ、事業とプライベートが混ざりやすいのです。
ここで登場するのが「事業主借」「事業主貸」です。この勘定科目を使えば、事業用の口座やカードでの出入金でも「プライベートのもの」として事業の利益計算から外すことができます。つまり公私混同を防げるのです。
事業主貸とは、プライベートで支出したお金を仕訳するときに使う勘定科目です。借方に金額とともに書きます。事業主貸を使った仕訳は、次のような場面で登場します。
事業用口座から生活費を引き出した場合、次のように仕訳をします。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
| 事業主貸 | 20,000 | 普通預金 | 20,000 | 生活費引出し |
次のように仕訳します。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
| 事業主貸 | 10,000 | 未払金 | 10,000 | バッグ購入 |
なお、屋号の入った制服など、明らかに事業用と判別できるものでない限り、服やバッグの購入代は必要経費になりません。
事業主借とは、生命保険金や児童手当など、プライベートのお金が入ってきたときに使う勘定科目です。自分の懐から事業用資金を手当てするときも使います。借方に金額とともに書きます。事業主借を使った仕訳は、次のような場面で登場します。
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
| 普通預金 | 30,000 | 事業主借 | 30,000 | 児童手当入金 ○○市 |
| 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
|---|---|---|---|---|
| 勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 | |
| 普通預金 | 50,000 | 事業主借 | 50,000 | 運転資金入金 |
青色申告決算書に「事業主貸」「事業主借」は現れます。4ページ目の貸借対照表です。

なお、事業主借も事業主貸も残高は翌年にそのまま繰り越しません。次の流れで処理します。
ここで事業主貸・事業主借についての簡単な質問に答えます。
なりません。プライベートでの入金や支出は事業に関係ないからです。ただし、電話代など、プライベートと事業が混在しているものについては、使用割合など合理的な割合を用いて按分し、事業用の部分は「通信費」などの費用に、プライベートの部分は「事業主貸」として処理します。
望ましくありません。そのまま青色申告決算書に表示されてしまうからです。マイナス表示のままということは「青色申告の前提である正規の簿記の原則(複式簿記)をわかっていない」と解釈される可能性があります。
事業主借・事業主貸の意味や使い方がわかると、憂鬱な記帳や決算処理、申告などが少しラクになるかと思います。この2つの勘定科目を使って事業用とプライベート用をきちっと区別し、正しい決算書を作るようにしましょう。
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。